UTI共同研究会の歴史

松本哲朗 (産業医科大学名誉教授)
山本新吾(兵庫医科大学主任教授)

1. UTI共同研究会発足の背景

1980年代をピークに抗菌薬の開発は急速に減少していった。それに伴って、それまで、多かった尿路感染症に興味をもつ研究者は激減し、大学の教室の中でも少数派になっていった。また、それまで、開発治験によって豊富であった研究費も、その獲得に困難を極めるようになっていった。さらに、文科省や厚労省などの募集する競争的研究資金が、時代の変遷と共に、感染症領域への配分も少なくなり、その獲得も困難となって行った。そのような背景にもかかわらず、英文の雑誌へ、尿路感染症の臨床成績を発表するには、比較的大規模な多施設共同研究などを要するようになってきた。そのような背景から、尿路感染症研究に興味を持つものが教室の壁を乗り越えて、互いに協力しながら、成果を出そうとの機運が盛り上がり、UTI共同研究会を立ち上げることとなった。当初の目的は、まずは、尿路感染症研究会へ出せるような演題を協力して、作っていこうとの発想であった。

UTI共同研究会は、発足当初は、任意団体として活動していたが、折しも、特定非営利活動法人(NPO)に関する法律が施行され、研究を行う際の資金獲得や税制の面からの優遇措置がなされることとなり、NPO化することとなった。UTI共同研究会を中心に、アジア臨床研究会および薬剤感受性サーベイランス研究会が合同して、NPO法人CRECネットを発足させた。NPO化することによるメリットは、法人資格を有することであり、当局への事業報告、会計報告、登記など面倒な事務作業を要することとなったが、研究資金の獲得に有利に作用し、事務所の保有も可能となった。

2. UTI共同研究会の発足

2003年(平成15)年10月24日、日本における泌尿器科領域感染症、特に、尿路感染症および性感染症の病因、病態の解明とその治療、起炎菌とその薬剤感受性のサーベイランスなどに関する研究の進歩、発展、周知を図ることを目的として、UTI共同研究会は発足した。UTI共同研究会のモットーは、「我々は我々の手でエビデンスを作ろう」である。UTI共同研究会の会員は誰でも研究プロトコルを提案することができ、承認された研究プロトコルは会員全員が共有し、共同で研究を遂行し、プロトコルの提案者が責任を持って、研究データを解析し、学会発表や論文化を行うことを申し合わせた。多施設共同研究におけるデータの管理や割り付け作業およびデータの解析・保管などはCRECネット事務局がその多くを担当することとなった。

2003年当時から、種々の診療ガイドラインが盛んに作成されるようになり、尿路・性器染症領域でも、ガイドラインの作成が必要となってきたが、その作成過程で必要なエビデンスは、わが国には少なく、欧米の論文を引用する必要があった。しかしながら、欧米の治療薬は、保険制度の相違や製薬会社の製品ラインナップなどの相違から、欧米の論文からのエビデンスをそのまま使用できないという欠点があった。従って、わが国の状況に沿った形でのエビデンスの構築が強く求められることとなった。このように、診療ガイドラインの作成とその評価はUTI共同研究会の活動の中心的なものとなり、それに派生した多施設共同研究やサーベイランス事業などが必要となって行ったのである。

発足当初は、種々の研究プロトコルが提案され、共同研究が始まったが、論文作成までには、時間を要した。また、下記に示すガイドラインの分担執筆に大きな精力を使ったため、個々の共同研究の進捗は捗々しくなかった。また、共同研究のデータは集まり、解析され、学会発表までは進んだものの論文化まで至らなかった研究が数多くあったので、UTI研究会では、論文化推進委員会を設置し、論文執筆を促すこととなった。このような努力の甲斐あって、学術論文は英文を中心に、多くの論文がでることとなり、現在では30編超える英文・和文論文が発表されるにいたっている。

3. 発足間もないころのUTI共同研究会

発足当初は、種々の研究プロトコルが提案され、共同研究が始まったが、論文作成までには、時間を要した。また、下記に示すガイドラインの分担執筆に大きな精力を使ったため、個々の共同研究の進捗は捗々しくなかった。また、共同研究のデータは集まり、解析され、学会発表までは進んだものの論文化まで至らなかった研究が数多くあったので、UTI研究会では、論文化推進委員会を設置し、論文執筆を促すこととなった。このような努力の甲斐あって、学術論文は英文を中心に、多くの論文がでいることとなった。

4. UTI共同研究会作成のガイドライン

UTI共同研究会の大きな業績の一つが、泌尿器科領域感染症に関するガイドラインの作成であった。日本泌尿器科学会のサポートによる「泌尿器科領域における周術期感染予防ガイドライン」2006年を皮切りに、「泌尿器科領域における感染制御ガイドライン」2009年、「尿路性器感染症に関する臨床試験ガイドラインー第1版」2009年などを編纂し、その後、日本感染症学会・日本化学療法学会発行の「JAID/JSC感染症治療ガイド」2011年、2014年、2015年、2019年の尿路性器感染症領域に関する執筆などを行った。2016年には「泌尿器科における周術期感染症予防ガイドライン 2015」は、広く周知するため単行本にも編集し、英文論文としても発表した。最近では2021年に「尿路管理を含む泌尿器科領域における感染制御ガイドライン 第2版」が発表された。現在2023年の発表予定で「泌尿器科における周術期感染症予防ガイドライン 2015」および「JAID/JSC感染症治療ガイド」が改訂作業にはいっている。

5. アジアUTI/STI学会(AAUS)への参画

UTI共同研究会の発足の後、アジアにおける尿路感染症や性感染症に関する研究組織として、AAUSを立ち上げることとなった。その原動力になったのは、韓国における尿路感染症の学会(KAUTII)が立ち上がり、UTI共同研究会との情報交換や共同研究に道を開くために、色んな活動を行おうというものであった。さらに、日本と韓国のみならず、広くアジア各国、各地域に声を掛けて、アジアにおける研究基盤の構築を目指して発足させた。第1回目の学会を2003年11月に福岡で開催し、毎年1回、アジアのどこかで学会を開催してきた。AAUSの単独開催も行っているが、アジア泌尿器科学会(ACU)または西太平洋化学療法学会(WPCCID)の際に、シンポジウムを行ってきた。AAUSを基盤として、ヨーロッパ泌尿器科学会(EAU)やアメリカ泌尿器科学会(AUA)などとの共同作業として、International Consultation of Urological Diseases (ICUD) bookの編纂、分担執筆なども行った。このICUD bookも、改訂作業が進行中であり、まもなく新しい版が出版される予定である。さらに、最も最近の仕事としては、UAA/AAUSガイドラインを作成し、完成した。これらの多くの活動には、UTI共同研究会の会員の努力が必須であった。現在でも、UTI共同研究会のメンバーはUAA/AAUSガイドラインの改訂やUAA総会に伴って毎年開催されるAAUSシンポジウムに積極的に参画している。

6. NPO法人CRECネットの発足

2008年(平成20年)9月13日 北九州市のクラウンパレスホテルにおいて、CRECネットの設立総会が開催された。それまで、任意団体として活動していたUTI共同研究会、アジア臨床研究会、薬剤感受性サーベイランス研究会の3組織が構成団体となり、NPO法人CRECネットが発足し、同年12月25日に認証を得、翌年2009年1月15日に登記を行った。その後、2009年(平成21年)4月より、AAUSも所属研究会となった。その後、排泄ケアを考える会とひびき臨床微生物研究会が参加し、2016年現在、6つの研究会で構成している。

理事長熊澤 淨一(九州大学名誉教授)
副理事長松本 哲朗(産業医科大学)
理事谷口 初美(産業医科大学)
中濵 力(中濱医院)
荒川 創一(神戸大学)
監事山本 新吾(兵庫医科大学)

7. UTI共同研究会の今後

UTI共同研究会は、毎年4月ごろの日本泌尿器科学会総会時に年度初めの役員会・総会を開催し、前年度の事業報告や会計報告を行い、その後、日本化学療法学会の総会や地方会に合わせて開催し、年3、4回の会議を行ってきた。そのような機会に、共同研究プロトコルの進捗状況を報告し、種々の意思統一を図ってきた。このような活動から、詳細は業績集に譲るが、種々のガイドラインの作成、多くの共同研究に基づく原著論文の作成、海外学会でのシンポジウムの開催などができた。筆者は、2014年に大学を退職に伴い、UTI共同研究会とAAUSの会長を退いたが、会員諸氏のさらなる奮闘に期待したい。

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